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INTERVIEW / HIROMASA NAKATSUKA
中塚洋佑
2022年入社
大学院で素粒子宇宙論の研究に携わり博士号を取得。
2022年4月に野村證券に入社後、データ・サイエンス部で研究員として研究開発業務に従事。自然言語処理技術を軸に金融市場から社内ビジネスまで幅広いテーマで分析・開発を推進。直近では大規模言語モデルを活用したビジネス高度化に取り組む。
― 野村證券に入社する前はどのような研究をしていましたか?
素粒子物理学という微小な世界の法則を説明する理論を用いて、この宇宙が誕生した直後の物理現象の解明に取り組んでいました。自ら考えた理論モデルを使って未知の現象に挑戦することが面白く、研究に没頭していました。
― 自然科学分野で博士号を取得後、なぜ野村證券を選んだのでしょうか。
博士課程を終えて数理的な分析能力を活かせる仕事を探したときに金融業界に興味を持ちました。金融業界では金融市場の数値データから企業等が開示する文書、さらには衛星画像など、多様なデータをビジネスに応用できる点に魅力を感じました。そこで幅広い金融領域の専門家が所属している野村證券への入社を決めました。特に当部は部長を含め博士卒の社員が多く在籍しており、研究開発への理解があることも入社を決めた理由の一つです。
― 野村證券に入社後は、どのような業務を行ってきたのでしょうか。
入社後は主にテキストデータに関連する分析に取り組んでいます。企業の開示文書といった外部のデータだけではなく、証券会社内でもアナリストが執筆するレポートや社内外に向けた資料など膨大な文書が日々作成されています。このような社内外のデータを活用して、新規ビジネスの実現性を探る、蓄積された資料から有用な知見を導くといった、新たな付加価値の創出を目指しています。近年では大規模言語モデルによって高度なテキスト処理ができるようになり、今後ますます発展が期待される分野です。
― データサイエンティストとして部署横断的に活躍されていると伺っています。データ・サイエンス部の業務について教えてください。
当部の主な役割は二つあります。一つが取引戦略の開発です。当部はグローバル・マーケッツの実務者と連携して中長期での取引戦略の高度化に貢献しており、開発した戦略が収益に直結するやりがいのある仕事です。もう一つは私が主に取り組んでいる社内データの活用です。データ分析に加えてダッシュボードやアプリの開発も行い社内データの活用を総合的に推進しています。他部署から依頼を受けるだけではなく、データ利活用を能動的に提案することもあります。例えば、デジタルマーケティング、検索、マッチング、翻訳、文章校正などの提案・エンジン構築・分析に取り組んでいます。また、大規模言語モデルを活用したビジネスの高度化の概念実証を進めています。
― 生成AIを用いたビジネスの高度化について教えてください。
大規模言語モデルを単なるチャットボットではなく複雑な処理を行うパーツとして組み込むことで、人手では難しいワークフローの実現や効率化に取り組んでいます。開発では一般的に知られている手法を使うだけではなく、実務の知見を反映した高度化が重要になってきます。例えば文章生成では、意味が伝わるだけではなくビジネス用途に求められる用語の選択や一貫した記述が要求されます。このようなビジネス上の要求を達成するため、研究と同様に試行錯誤しながら開発を進めています。その他にもこれまでにない革新的なコンテンツの創出を目指して金融市場に関連する幅広い研究開発に挑戦しています。
― 自発的なプロジェクトとして若手社員のアイディアが採用されたことはあるのでしょうか?
当部では若手社員が積極的にプロジェクトを提案し、分析をリードする機会があります。私が入社後に提案したプロジェクトとして、社内での資料作成をサポートする文章校正エンジンの開発があります。当初は大規模言語モデルの学習方法など苦戦する場面もありましたが、社内の専門家の協力を得て数百名のユーザーに利用されるツールを完成させました。他にも様々なプロジェクトで若手が活躍しています。
― ビジネスに裏付けられた知見が重要とのことですが、データ・サイエンス部の強みはどこにあるのでしょうか。
研究開発と実務の双方から得た知見を融合させることが当部の役割であり強みだと考えています。実務との距離が近いことで、暗黙知として知られているノウハウや新しいアプローチを発見することができます。逆に研究経験を活かして、実務上の複雑な課題を解決できるようになります。大規模言語モデルを使えば誰でもデータ分析のコードが書ける時代だからこそ、統計的検定や背景にある原理の理解といった基本的な分析が重要になります。また、取引戦略の開発では、金融工学から機械学習、強化学習など幅広い理論が活用されます。そのため実務者と協働する研究員が求められており、博士卒の方が大いに活躍できる仕事だと私は考えています。
― 業務のやりがい、今後の展望について教えてください。
金融業に関係するデータや分析事例は公にされることが多くないため、分析方法を手探りで開発していくという面白さがあります。自分が開発したモデルやロジックが業務に利用されることで、ビジネスで新たな価値を生み出していることを実感できます。
将来の展望として、大規模言語モデルを含む生成AI技術が急速に発展する中で、金融業は生成AI活用の最前線の一つになると考えています。マルチモーダルAIや自律的に行動するAIエージェントなど、次々と現れる先進的な手法を迅速にビジネスに実装することが求められます。金融経済分野に興味がある皆さんと共に、実務と研究開発の両面から生成AIの活用を探求できることを楽しみにしています。